「歩き方を見直したいから、プールで水中歩行をしています」
そうおっしゃる方が時々いらっしゃいます。
運動としての水中歩行はとても良い習慣です。浮力がある分、関節に負担をかけずに全身運動ができますし、リハビリや筋力アップには効果的です。
でも、ここに一つだけ、知っておいてほしいことがあります。
水中での歩行は、「歩き方の練習」にはなりません。
なぜなら、水の中では重力の影響を大きく受けないからです。
私たちが日常で歩くのは、地上です。重力をまともに受けながら、全身のバランスを取り、筋肉や骨格を連携させて「歩き」という動作をしています。
水中歩行は、この「重力環境での身体の扱い方」を学ぶ場としては適していません。
それはちょうど――
補助輪をつけたまま、自転車のバランスの取り方を練習しようとしているようなもの。
補助輪があれば、転びにくく安心して乗れますよね。
でも、いつまでも補助輪があると、本当のバランス感覚は養われません。
水の浮力という“補助輪”があるうちは、重心移動など歩く為の使い方を、正確に感じ取ることは難しいのです。
筋力アップと、正しく歩くことは、似ているようで全く違うスキルです。
いくら足腰の筋肉があっても、歩く時の姿勢や重心の位置、体の使い方が適切でなければ、「きれいに」「疲れにくく」歩くことはできません。
では、正しい歩き方はどうやって身につけていくのか。
それは日常生活の中、重力のかかる現実の地面の上で、
「自分の体をどう動かすか」に丁寧に向き合うことです。
歩き方を変えるには、自分の感覚と動作を観察しながら、
ひとつずつ、自分の体の使い方を再教育していく必要があります。
これは一朝一夕でできることではありませんが、逆にいえば、時間をかければ誰にでも身につけられるものです。
プールでの運動が悪いとはいいません。
でも、「正しく歩けるようになりたい」と願うなら、
それは地上での練習、日常での身体の使い方の改善が必要です。